組織風土改革の失敗事例(よくある失敗パターン)

組織風土という言葉の意味が「あいまい」であるがゆえに、意図していない組織風土改革になってしまうことがよくあります。
組織風土改革の推進者は、このページで紹介するような失敗事例をしっかり把握し、同じような失敗に陥らないように気をつけることが大切です。

失敗事例1:現場力向上・自律的改善活動といったネーミングの組織風土改革

このようなネーミングの活動は、現場組織に対して次のような期待を持っています。

  • 社員が自律的に改善や提案を積極的に行う
  • 改善や提案件数が増える
  • 改善や提案内容がレベルアップする
  • 改善を通じてコストダウン・生産性向上・品質向上・CS向上などの成果が出る

この4つの期待のうち、「自律的な改善や提案」は活動の過程であり、その他(件数アップ、内容レベルアップ、成果)の期待は活動の結果になります。

企業活動では、「結果」が重要という固定概念があるので、「自律的な改善や提案」よりも、「改善や提案件数や内容のレベルアップ」や成果を重視していまいます。
この「結果」重視に動き始めると、組織風土改革は必ず失敗します。

「改善件数を○件上げろ!」、「結果が出ていないじゃないか、しっかり改善しろ!」と経営陣の一部の人、現場のマネジャーなど、誰かが言い出します。
推進する事務局も、結果を意識せざるを得なくなり、改善件数をノルマ化し始めます。
このような状況になったら「組織風土改革」の活動ではありません。

組織風土改革は「社員が自律的に改善や提案を積極的に行う組織風土」にしたかったはずです。しかし、強制をして、ノルマ化して、どうするのでしょうか?
結果が重要ならば、はじめから「改善件数アップ活動」とか「コストダウン活動」などと言って、成果を重視した強制活動にした方が短期的には大きな成果を獲得できます。


失敗事例2:働きがい向上といったネーミングの組織風土改革

このようなネーミングの活動は、社員に何か強制することなく、働きがいのある職場をつくることで、「社員が自律的に改善や提案を積極的に行ってもらえるようになる」という期待を持って行う活動です。

確かに、「働きがい」という言葉から、社員に何かを強制するケースは少ないため、「失敗ケース1」に陥ることはありません。
ただし、「働きがい」は曖昧な言葉のために、何をしたらいか難しい活動になってしまいます。そこで、よくあるのが次のような施策です。

  • 社員の要望を出してもらい、対応できる範囲で会社として対応する
  • 社員の不満を出してもらい、対応できる範囲で不満解消に向けた対策を打つ

この施策を行うと、はじめのうちは社員から前向きな要望が出てきます。
例えば、産休の制度見直しや就業時間を柔軟にしてほしいといったものです。このような要望に、会社の制度等の見直しを推進して社員の要望に対応するのはよいことだと思います。

しかし、これが徐々に不満を言う窓口に変わってきてしまいます。「上司が悪口を言っている」とか「給料が低い」とか「社長が現場を知らない」など・・・。
自由に意見が言える雰囲気ができればできるほど、この不満の件数が増え、事務局はこの不満に対する回答づくりで、手一杯になってしまうことがよくあるのです。
場合によっては、不満に対する回答づくりを経営陣も関わって誠実に対応していることもあります。
しかし、誠実に対応したところで、もともとの期待する「社員が自律的に改善や提案を積極的に行う」という風土には変わらないのです。
なぜなら、不満解消をすることは、「働きがい向上」にはつながらないからです。

働きがいとは何かを明確にし、そのための施策を考えることが必要です。


失敗事例3:コミュニケーションの活性化といった手段先行の組織風土改革

「コミュニケーションの活性化」といった手段先行型の組織風土改革の場合、たいてい次のようなことを行います。

  • 部門を越えたコミュニケーションの活性化として運動会や飲み会を開催
  • 会社や組織の将来を語り合う合宿の開催
  • 褒め合う文化にしようと全社的な表彰イベントを開催

これらの手段は、組織風土改革にとってとても効果のあるものですが、実際には「楽しい企画が増えた」「周りの人と話やすくなった」といった声が増えるだけで、「結局何だったの?」という活動になってしまうことが多いのです。
これらの手段を実施する際、すべての参加者が「何のためにこの企画を実施しているのか?」、「この企画を通じてどのような状態を目指すのか?」、「その状態は会社の業績にどのように結びつくのか?」を理解し、納得し、できれば共感している状態でなければ、一時的な盛り上がりで終わってしまうのです。


失敗事例4:ワークライフバランスといったネーミングの組織風土改革

ワークライフバランスは、「仕事と生活の調和」と訳され、内閣府も「仕事と生活の調和がとれた社会」を実現するためにワークライフバランスの推進を行っています。

ワークライブバランスという言葉からイメージされるのは「仕事の時間の削減」であり、このために「残業削減」が主な課題となってしまうケースがとても多いようです。

残業削減活動になってしまうと、やることは決まって次の2つです。

  • 定時日を設定し、強制的に定時に帰ってもらう
  • 早く仕事が終わるように業務遂行を徹底的に管理する

このように強制的に社員を帰らせるとか、徹底的に社員の業務を管理するという施策は、社員の自律を阻害し、自らの意志で考えて行動する能力を弱めてしまいます。
これでは、組織風土の悪化につながります。
もし、このような「残業削減活動」になってしまうのであれば、ワークライフバランスなどとわかりにくいネーミングにする必要はなく、「残業削減活動」と明確にすべきです。

会社でワークライフバランスを取り組むのであるならば、仕事もプライベートもいきいきと精一杯できる環境づくりをし、会社にとっても社員にとってもメリットのある活動にならなければ意味がありません。
そのためには、社員が「自分の生活をどのようにしたいのか」を本気で考えられるような環境をつくり、生活の中で仕事をどう位置付けるか明確にしたうえで、自律的に行動できる能力を高める活動が必要です。


失敗事例5:ダイバシティーといったネーミングの組織風土改革

ダイバシティーとは、「多様性の尊重」と訳され、性別、年齢、人種、宗教などの違いを尊重しようというものです。
組織風土改革においても、それぞれの人の違いを生かして組織力を最大化するために、ダイバシティーは重要なテーマです。

ところが、タイバシティーというネーミングの活動をしている多くの企業では実質的には「女性の働きやすい環境づくり」の活動になっているようです。

  • 女性にとっての労働環境の問題点を抽出する
  • 整理された問題についての対策を具現化する
そして、たいていの場合、産休や産休後の復帰の制度をつくったり、託児所などの対応をしているようです。

この活動のやり方は、結局、「立場が不利」な人の要望を聞いて、「不利」な部分をなくそうという活動で、多様性を尊重することにはなりません。
本来は、それぞれの強みと弱みを整理し、強みを組織的に生かすためにどのようにしたらよいかを検討すべきなのです。
日本の企業では、女性だけでなく、国籍、障害者、鬱病からの復帰者など、不利な扱いを受けていることが多いようです。
テーマを「女性」に絞ることことも、非常に問題です。

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